知ろうとすること。 読了

知ろうとすること。 (新潮文庫)

知ろうとすること。 (新潮文庫)

福島第一原発の事故以降、事実を元に発言してきた物理学者の早野龍五さんの
各種取り組みと福島との関わりついて、糸井重里さんとの対談をまとめた本。
 
これを読むきっかけとなったのは、
2015年5月時点で小児甲状腺がん及び疑いの子供の数が合計126人になったという記事を
目にしたからです。素人目に見ても、これはやっぱり多いのではないか?
という疑問を持ったから。
 
読み進めていく中で、給食の陰膳調査を当初自腹で復活させたり
実際に計測すると、内部被ばくの量が少ないがそれを論文にまとめたものがなかったため
専門外でありながら書き上げたりと行動力凄いです。
(2013年に国連がレポートをまとめることになっていたが、その材料となる査読付き論文がほとんどなく、
チェルノブイリから想定した内部被ばく量よりも実際の値ははるかに少なく、
正しいデータが反映されないのはまずいという考えから論文を書いたとのこと)

甲状腺がんについて

  • ヨウ素131
    チェルノブイリでは、ヨウ素131で汚染された牛乳を飲んだことにより、子供の甲状腺がんが多発した。
    ヨウ素131は半減期が8日なので、今測っても出ない。
    国として、福島の事故直後に測っておくべきだった。
     
  • 大人数の子どもを丁寧に検査していくと見つかるもの
    例えば韓国が世界で一番甲状腺がんが多い国。
    乳がんのエコー検査をするときに、ついでに甲状腺も検査しましょう、ということを大々的に行ったところ
    患者数が5倍にも跳ね上がった。
    (韓国の場合は、大人の女性を対象に調査。「探せば出る」と結論付けるには早計という見方もある。)
     
  • 甲状腺がんは進行が遅い
    ほぼ、命に別状がない。
     
  • 他県との比較は難しい
    青森、山梨、長崎で数千人規模の調査はやっている。
    これを大々的にやればいいかというと単純ではない。
    福島の方は、不安やリスクがある。
    (おそらく調査すれば他県でも出るので)知らずに済んだもの知ってしまう可能性がある。
    甲状腺がんを探すことになんのメリットがあるのかという意見もある。
     
  • 福島では2回調査をし、2回目の検査を持って原発事故の影響があるかどうかを見ようとしている
    (2011年から3年かけて実施したのが1回目、そして2015年から実施ているのが2回目だそうで)
    時間を置いた2度目の検査で新しく見つかる人が多ければ、原発事故の影響があるとみれる。

 
現在、2巡目の調査中での増加は、がんと確定したのは15人、がんの疑いは24人との事。
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/society/society/1-0207895.html
 
専門家の方の意見も分かれているとのことですが、
これは、やはり多いのではないだろうかという気がします。まずは、調査完了後まで見守るしかないか。
 

内部被ばく

測定の結果、内部被ばくに関しては、かなり軽いことがわかり、
流通している食品に関しては、もう大丈夫とのこと。

  • 2011年の終わり頃、南相馬で1万人以上を、3か月、6か月と追跡調査 1ミリシーベルトを超えていることはほぼない。
    国が定めた、年間1ミリシーベルトを大雑把にベクレルになおすと5万べクレル。
    (これを基準に考えるとわかりやすい)
  • 米の基準値は、1キロあたり100ベクレル
    世界的に見ても、とても低い。
  • 福島県産の米袋は全てセシウム測定されている
    2012年で100ベクレルを超えたのは71袋。0.0007%。
     

ちょっと調べてみると、農林水産省がデータを公開していました。
米以外も公表しています。きのこ・山菜類は、若干100べクレル超えがあるようです。
それ以外はもう大丈夫という気がします。
農林水産省/農産物に含まれる放射性セシウム濃度の検査結果(随時更新)
27年産は、100べクレル越えは0。50〜100べクレルは4。という数値。全然大丈夫そう。
でも総数が6,529,870と前年の半分ほどになっているのが気になります。

 

ラドン温泉と138億年前の話

福島と直接関係ないんだけど、この話がとんでもなく面白かったです。宇宙とはロマンやなぁ。
ラドン温泉とは」から始まり、壮大な宇宙の話へと展開していきます。
化学を学ぶ時に、この話から入っていれば、化学好きになったかもしれません。
この章だけで、なんか読んでよかった気分になります。

「たぶんこれ、確かなんです」

原発の燃料にならないウラン半減期が地球の年齢とほぼ同じ(44億6800年年)。これがなぜそこにあるか?

138億年前に「バン!」っていって宇宙が生まれた。
そこでできたのが陽子。それに電子がくっついて、水素の原子ができ、
元素は水兵リーベの順番で生まれた。
Beから後ろの元素は、宇宙に星ができて、星の中で水素の核融合が起きて、ヘリウムを作って
どんどん反応が進んで、星の中でヘリウムがくっついて炭素ができて、酸素ができて、というふうにして生まれていった。

星には終わりがある

長い年月を経て燃料を使い果たすと、だんだん真ん中の方に酸素ができて、最後は鉄みたいな物質になる。
もうそれ以上何をくっつけてもエネルギーは出ないので、それで止まる。
 
星が燃料切れになるというのはどういうことかというと、それまで星というのは、
真ん中に向かって引っ張られている状態。重力、万有引力で、その星の真ん中に向かって
つぶれようとする。ところが、つぶれたいけど、一生懸命光っているので、光が押し返している。
光ることによって、星の、あるいは太陽の、一定の大きさというのが成り立っている。  

超新星爆発

星が燃料切れになると、引力を押し返せなくなるので、真ん中に向かって星は徐々につぶれていく。
一気につぶれると、真ん中にある鉄の塊に、どんどん電子がめり込んでいって、最後は中性子星になり
その反動で外に向かって爆発する。
爆発時に、星が作ってきたさまざまな元素が宇宙空間にばら撒かれる。
そのとき、爆発の中心にはたくさんの中性子を持つ中性子星ができ、
ばら撒かれる鉄などにどんどん当たって、一気に元素の種類が増える。
そのときにできた割と重たいようそのひとつが、ウラン。 宇宙空間にばら撒かれたものが、また重力で集まり、新しい星になる。
たくさんの元素を取り込んで、地球ができた。それが、だいたい46億年前。  

水素

  • 体の中で一番多いのは水素
  • 水素の原子の年齢は138億歳。つまり宇宙と同じ。
  • ビッグバン以降、水素が大量に作られようなプロセスはない
  • 宇宙が始まったときにできた水素が、めぐりめぐって今も(自分の中にも)存在している  

ラドン

ウランという元素は、長い時間をかけて、α線という放射線を出しながら
徐々に壊れていく。最終的には鉛になる。その壊れていくあいだの途中でラドンという元素が生じる。
岩、コンクリート、土の中に微量のウランがあって、ある時ラドンになる。
ラドンは気体なので、その気体を吸って内部被曝している。
温泉の成分として微量のラドンを含むものは療養効果があるとされる一方、高濃度のラドンは健康リスクがある。
ラドン温泉は、線量としては非常に低い。
 

目次

序章 まず、言っておきたいこと。
1章 なぜ放射線に関するツイートを始めたのか
2章 糸井重里はなぜ早野龍五のツイートを信頼したのか
3章 福島での測定から見えてきたこと。
4章 まだある不安と、これから
5章 ベビースキャンと科学の話
6章 マイナスをゼロにする仕事から、未来につなげる仕事へ